ひとつしか照らさない灯りを手に持って
ホロウ・シカエルボク


ひとつしか照らさない灯りを手に持って
人通りの途絶えた通りを歩いている
日にちの変化や、年号の変化
様々な冠が世界を駆け巡るけれど
実際のところ、それはただの節目に過ぎなくて
ひとつしか照らさない灯りは
せいぜい何かに躓かないで済むだけ
それでも
ないよりはきっと幾分かましだけど
でも
安楽死のような一生を歩くことだけが人の誇りだと
そんな安易さを選ぶなら生き続ける意味もないだろう
巨大な意識に寄り添う人たち
そう、まるで戦時中みたいに
そこに居れば楽だし
そこに居れば安全
そこに居ればなにかと便宜を図ってもらえる
ひとつしかない灯りは
そんなものを絶対に照らすことはない
だって、ごらんよ
そんなものを誇りにしている彼らの顔ときたら
LEDの病的な明るさの下で
まるで盲目的にしか生きていないじゃない

ひとつしか照らさない灯りを手に持って
人通りの途絶えた通りを歩いている
どうしてそこは誰も歩かなくなってしまったのか
それは
人生を楽しいと錯覚させてくれるものが
みんなシャッターを下ろしてしまったから
ひとつしかない灯りは
錯覚を必要としない
楽しいふりをするためにアルコールに協力を要請したり
ネットで自分のハッタリの為に他人をダシにする、なんて
卑しい真似をする必要もない
ひとつしかない灯りがその光で照らすものは
必ず自分の歩いていく先のはずだ

方法は、手段は、きっとごまんとある
だけど選べるのは必ずひとつだけだ
気負う必要はないけど
あまり悠長にも構えちゃ居られないぜ
だって、人間は
幸か不幸か必ず有限なんだからさ



自由詩 ひとつしか照らさない灯りを手に持って Copyright ホロウ・シカエルボク 2021-12-31 23:21:13
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