まぼろし
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 まぼろし


まるい
地球の影におおわれ
冬を
むかえた空から
宇宙がよく見えた
黒い雲のすき間から
着陸灯をかかえた旅客機が
旋回しながら
渡り鳥を
一羽
また一羽と吸いこむのが
見えた
わたしは
ポケットから取りだした
ユージーン気どりで
シャッターを切る
心地よさにひたる
けれど
仕上がりに
映るものは何もない
なぜなら
そんな鳥は
いなかったのだから
飛行機は
旋回しなかったのだから
雲は白く
宇宙ははじめから存在せず
地球は孤独な回転をはやめる
さびしい
まぼろし
わたしだけが指さきにできる
ほしいままの空
ファインダーのむこうに
つめたい灯がおかれ
消えていくまぼろし
そして
ちいさな花屋で
葉牡丹の寄植えを
ながめ
衛星のようなたこ焼きを
くわえ
落ち葉をふみしめ
橋をわたる帰り道から
矢印が消えて
町を見失っても
あしたを照らしつづける
星の引力に傷つけられても
もう
かなしくない
このなみだも
まぼろしだから



自由詩 まぼろし Copyright soft_machine 2021-12-31 15:34:19縦
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