王子と人魚の話
板谷みきょう

婚姻関係を結んでから
生殖行動をするものだと
固く信じていた王子が
足萎えの人魚と恋に落ちた

王子はすぐさま王妃に
美しい歌声を持つ人魚を
紹介したが
王妃はその姿を見て

あれでどうやって
台所に立つと云うんだい

お前を片輪者と一緒に
させる為に育ててきたんじゃ
無いんだ

王妃は人魚の前で
平然と
そう言い放った

それから人魚は
王子の前から姿を消した

そして数か月後には
王子は服毒自殺を図った

王様は
占い婆の許を訪ね
八百万の神に王子の命を
救うように祈り
現れた竜神の指示に従い
影膳を用意しては
川に流して回復を願った

三日目に
「バカヤロー!」と叫び
王子の意識は戻ったというが
王子は
体中のリンパ節は潰瘍を作り
臀部には褥瘡も作られていた

王子のベッドは三階の6人部屋に
一人だったので
飛び降り自殺を懸念し一か月の間
従者が付き添いをしていた

しかし王子は立ち上がる気力も無く
食事の時に半座となっても
激しい眩暈が襲い
歩行もままならなかったのだ
ある程度の治療期間の後
王子は王様に連れられ
占い婆の許を訪ね
生き想いを断ち切る祈祷を受けた

それから暫くして
王子には新しい姫君が与えられ
二人の子供を授かったのだ

人魚とはそれから一度も
会ってはいない

人魚との再会の機会は
それから数年後のことである
その話は
いずれまた改めてすることにしよう

さぁ、今日の夜伽は
ここまでにしておこう
2021年の終わりに向けて
来年こそは
幸いなことの起こることを願って
眠りに就こうじゃないか


自由詩 王子と人魚の話 Copyright 板谷みきょう 2021-12-30 03:30:03
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