笑える日、笑えない日。
ちぇりこ。

笑えないのがいけないのか
笑われることがだめなのか
春の夕陽が斜めに校舎を切り取って
ぽかん、とそこだけ取り残されたような
学童保育の真ん中で
君は三角形に座ってぼくのお迎えを待っていた
「今日はちょっと調子悪かったわね」
吉田先生の笑顔が引きつったまま
ぱりぱり音を立てて剥がれてゆく
ぼくは簡単な挨拶を済ませて息子の手を引く
手のひらから伝わってくる体温は
小さく震えながらぼくの指先を帰途へと急がせる
よしくんと何かあったのか
笑われて逃げだしてしまったのか
君はうまく伝えられなくなると口の端が引きつったようにぴくぴくと動く
ぼくは息子の頭を撫でる
君の周りの大気が軽やかになるおまじないだ
「レンタルしてきたデカレンジャーの映画版を今夜観よう」
とっておきの魔法の言葉も用意してある
ぼくは知っている
君は誰もいない空間に向かって笑顔の練習をしていることを
人差し指できゅっ、と口角を上げて
綺麗に笑えるときっとみんなと上手くやれる
小さな頭で精一杯の方程式を解こうとしている
そんなことはどうでもいいのだ
笑顔の方程式なんて
ぼくとお母さんは知っている
みんなと上手く笑えなくても
君はとても優しく笑う
春の陽は沈みそうで沈まない
曖昧なぼくたちの影を何処までも伸ばしてゆく
その影の伸びる方角に
きっと笑顔は咲いている



自由詩 笑える日、笑えない日。 Copyright ちぇりこ。 2021-12-23 10:39:22
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