ドロシー
ちぇりこ。

Yellow Brick Roadを駆け抜けてきた娘は
トルネードのように戸を開けて

「ドロシーにあったの!」

雨上がりの道々の端っこに点在する
青空を切り取った水たまりのような
あっけない笑顔でぼくに言う

それって、あの、
「うん、あの!」
どこであったの?
「あっち!」

うたた寝の夢から続いている
黄色いレンガ道の途中
ドロシーの行方を追いかけるように
外へ出る
もうすっかり陽は西に傾いて
街中にオレンジ色のビー玉が
緩い傾斜のスロープを転がっていくように
黄昏を迎え入れようとしている

「ひこーきぐも!」
ほんとだ
ドロシーはあっち?
「ううん、あ!ねこ!」

ドロシーはどこへ行ったやら

「ねこ!えっとね、ちぇしゃねこにもあったよ!」
(物語が混在している、)

西陽に照らされて
はちみつ色に束ねた細い髪が
揺れている
その細い髪の毛の先を通り抜けてゆく
風のくる方
そこにドロシーは居るのかもな

「まじょもいる?」
さあね
北の良い魔女に出会ったら
何をお願いする?
「えっとね、、、すいっち!」

Switchなら
ぼくでも叶えてあげられる夢
プリキュアでもシルバニアでも
アヒルのスタンプでも
手の届く夢ならいつでも

ぼくはいつまでも
君の一番いい!
と思える場所じゃ居られないって事は
わかってる

夕陽に照らされて君の影は伸びてゆく
ぼくなどすぐに追い越して
メゾン・ド栄も追い越して
新町四丁目の交差点を通り過ぎ
駅前キラメキストリートを飛び越えて
どこまでも
どこまでも伸びてゆけ

(きっと娘は)

ぼくのしらない空のうえには
ぼくのしらない虹がかかり
ぼくのしらないドロシーと
ぼくのしらないエメラルド・シティで
ぼくのしらないドーナツをたべている

いつか
不安になったり
つまづいた時には
いつでも振り返るといい
そこには
知恵を失くしたスケアクロウが
勇気のないライオンのように
君の後ろで支えている
から



自由詩 ドロシー Copyright ちぇりこ。 2021-12-16 20:30:49
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