チグリス
ちぇりこ。

空想で猫を飼う、名前はチグリス
名前を呼ぶと尻尾をぴぃんと立てて走ってくる、空想なのでチグリスは排泄行為をしない、猫砂もチュールも要らない、今夜は冷えるから一緒に寝ようと言えば、チグリスは尻尾を立てたまま布団に入ってくる、うるうるといっぱいに水分を湛えた両目でぼくを見つめる、ザラりとした舌の感触がぼくの頬を伝う、部屋いっぱいにザラりとした感触が広がる、感触の余韻、ある夜チグリスとベランダに出る、あまりにも星たちが騒ぐのでチグリスは眠れなかったらしい、ぼくはチグリスに双子の星の話を聞かせる、チグリスは耳を立てたまま水分をいっぱいに含んだ目をぐりぐりにしてぼくを見る、ぼくはチュンセ童子の声色でチグリスに語りかける、遠くの空で星の子どもたちがサラサラと夜の寝息を立てている、それに合わせてチグリスもポウセ童子の銀笛を吹く、冬の星座の星たちが星めぐりの歌を思い思いの旋律で歌う頃、チグリスはやっと眠りにつく、眠りについたチグリスを起こさないようにそっと寝床へ運ぶ、おやすみ、また明日。
翌朝、チグリスは消えていた、空っぽの部屋にチグリスの余韻だけが弱々しい朝の陽に象られ、空想の猫のかたちをした風がカーテンを揺らす、微かに漂うチグリスの残り香は昔別れた恋人の匂いと似ていた。


自由詩 チグリス Copyright ちぇりこ。 2021-12-08 16:02:53
notebook Home