ボーイズ/ビー/シド・ヴィシャス
ちぇりこ。

1)
別にグレてるわけじゃないし特に優等生でもなかった、どーにもならないこともあるし理不尽なこともあって親や先生にうんぬんかんぬん、ぼくはそれらでドロップアウトする気などさらさらないし、ただ面白いものを探していた。
夏休みに入ったある日Tくんが、兄貴のレコード棚からセックスピストルズ持ってきたから一緒に聴こう、とぼくの家にやってきた、セックスピストルズは名前は知ってたけどちゃんと聴いたことが無かった、ぼくの部屋のターンテーブルが回る、33回転に合わせてTくんは飛び跳ねる、Tくんが飛び跳ねる度に針は同じ箇所を何度もリピートする、ホリデイインザサン、ホリデホリデイインザホリデイインザサ、ホリデホリデ、Tくんはこれがパンクだと言う、ぼくはそれがパンクなのだと納得をする。

2)
田舎の駅前にたむろしているヤンキー連中と喧嘩になった際に胸ぐらを強く掴まれてしまった、そのお陰でぼくのTシャツは首元からビリビリに裂けてしまう、それを見たTくんはかっこいいパンクだと言い、Gパンの膝も裂こうと言う、Tくんちの玄関先でTくんはハサミを器用に使う、Gパンの膝の部分が深く切り裂かれてゆく、逃げ水の揺れるアスファルトの向こうに巨大なPAシステムがあって、ジャニス・ジョプリンのサマータイムがぐわんぐわん鳴っているけど、それはパンクじゃないんだ。

3)
おれもパンクになる、そう言ってTくんは自分のTシャツやGパンをハサミでジョキジョキする、これでTWO PUNKSだとTくんは笑って言う、Tくんと一緒に歩く、上も下もジョキジョキに切り裂かれた田舎の少年二人連れが白い畦道を歩いてゆく、カマイタチにでもあったのか、竜王山で遭難でもしたのか、と年配の方々の視線をよそに、ぼくらはジメジメとした湿気を含んだ風に吹かれながらパンクのように歩いてゆく。
ぼくたちの歩いている傍らで低空飛行のギンヤンマが交尾をしている、人目も憚らず交尾するなんてトンボはパンクだとTくんは言う、ぼくはそれがパンクなのだと納得する、結局、何がパンクでパンクじゃないのか曖昧なままぼくたちは成長した、Tくんとは疎遠になってしまった、でもあの日以来ぼくのハートには無数の安全ピンがブッ刺さったまま血を流し続けている。
パンクとはそう言うものだ、それがパンクだ。



自由詩 ボーイズ/ビー/シド・ヴィシャス Copyright ちぇりこ。 2021-12-07 22:01:34
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