欠勤
本田憲嵩
窮屈な革靴と黒い靴下を僕は脱ぎ捨てる。白い砂浜で白い素足になる欠勤。満ち溢れた創造性の海。喜ばしい陽の光と爽やかな風を肌いっぱいに浴びて、白い鴎の方向性。ワタシは白いワンピースを着た少女となって、平日の閑散としたショッピングモールへと赴く。
映画館の闇の中へとワタシは失踪している(いや、この場合、僕というべきか)。会社、社会、家族というシステムに対して、すくなくとも今日は死んでいたい。でも、本当は僕は僕という存在、生に対して、今は失踪していたいのかも。スクリーンだけが明かりの闇のなかで、これが、解けている、と謂うことなのか、すなわち死なのか、などと取り留めのないことを考えたりしている。日々の蓄積された疲労のせいなのか、
走馬灯のエンドロールが流れる。解けることは誰にでも必ず最後には訪れる。もちろん僕という個人のフィルムだって。そう、いつかは砂浜のように白くなってしまう。ものならばできるだけ一コマ一コマ眼を凝らして記憶してゆきたい。できれば喜ばしいシーンだけを、けれども悲しいシーンだってできるだけ。それが僕という生、それがいつも隣り合わせの彼女(ワタシ)という死。できれば、コーラとポップコーンの偏食が良いのだけれど。それにしても隣の座席に座っているオヤジの鼻炎のカメラシャッター音がいちいち五月蠅い。そんなにジロジロ、彼女(ワタシ)を撮らないでよ。