交差点の植え込みの
いる

私にだけ浮き出して見える蛍光の矢印をたどり
啓示に導かれ
雑居ビル6階の人材派遣事務所に着く
そんなこともある 昨日は
残った小麦粉とキャベツを混ぜて焼いた
卵1個と
かつおぶし小袋2個分も入れた

明日を終わらせるには明日を
まずは受容する必要がある云々
真顔で説き始める私2を
黙らせて
別室で訊問する
動いてんのどっちだ
どっちだよと言いかけて

と苦笑する私1のくせに

どっちかと言えばどっちでもないよなあ
どっちも口だけだ
いや
発声すらしてないじゃんどっちも

共通の困難は連帯の契機ですよね
こういう時のための
手とかいう平凡な比喩を取り出し
軽く結び

「皿洗うの面倒だしこのままで食うか」

声もなく生地内に練り込まれたやつら
つまり2袋約3gのかつおぶし
かれらは
温かく固定されぴくりとも動かない
貨幣とか幻想混じってるのにさあ
こうやって物質と切れてないから困る
困るなあと麺つゆか
ウスターソースをかけて食うとうまい

指紋のはりついた携帯の画面も
光を発しているその間は純白
「私にしか見えないものが見える」
いやそれ当たり前だから
みんなそうだからと架空の電話を切って

しかし
代弁はできないんだよ
あのいつかの春
酔っ払って
自転車で突っ込んだ交差点の植え込みに
浮き上がる淡い矢印を見た
あのありふれた
でも

雑居ビル6階で
時間と空間を共有した誰かよ
たぶん
連帯はできるのだけど

ただあの あれについてだけは
あなたが語ってください
私には見えないから
あなたが見たものは
あなたが語ってください
そのために

昨日も小麦粉とキャベツと
時間と換えたものを混ぜて焼いて食った
同じ指紋のはりついて離れない
あるだけが一切の拘束としての指で
止まらずに
発熱しつづける暗い箱を握った


自由詩 交差点の植え込みの Copyright いる 2021-12-06 08:53:56
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