This is a pen
やまうちあつし

あの日の津波で
何万のペンが
流されたことだろう

たった一本
生き残ったペンは
誰かの胸のポケットに
しがみついていた

ペンはまもなく
もとの暮らしに

書くものは以前と同じ
取るに足らない文章ばかり

クセのある字の中に
誤字や脱字がちらりほらり

けれども
記された文字たちは
海を見つめていた
山を見つめていた
あるいは空を
あるいは星を
いつしか
にじんでいた

取るに足らない毎日は
取り返しのつかないものだった

何とも
くらべられない
何とも
名付けられない

ペンは思った

いつかインクが尽きるときまで
ノートの上を歩いていこう


自由詩 This is a pen Copyright やまうちあつし 2021-11-16 12:25:41
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