This is a pen
やまうちあつし
あの日の津波で
何万のペンが
流されたことだろう
たった一本
生き残ったペンは
誰かの胸のポケットに
しがみついていた
ペンはまもなく
もとの暮らしに
書くものは以前と同じ
取るに足らない文章ばかり
クセのある字の中に
誤字や脱字がちらりほらり
けれども
記された文字たちは
海を見つめていた
山を見つめていた
あるいは空を
あるいは星を
いつしか
にじんでいた
取るに足らない毎日は
取り返しのつかないものだった
何とも
くらべられない
何とも
名付けられない
ペンは思った
いつかインクが尽きるときまで
ノートの上を歩いていこう