堕天
46U
翼をもぎました
背中がかるくなりました
しとどに流れる血 真珠色の血あふれて
ふたすじの傷口を 白南風がなでて過ぎゆきました
すずしい背中
六月のこと
あなたの手をとりました
褥には茨がしきつめてありました
すこし 痛いけれど
いいえ 平気です
だって 黒い茨花 つぎつぎに咲くのですから
夢のようです あなたに抱かれること
あなたの執着を得たこと
あなたに飼われること
夢のようです 涙があふれます
あなたの貌がにじんで見えない
愛に盲いた琥珀の瞳
ばらの棘で両の眼を刺して
あなたの棘で麻酔をうけて
翼はもいで棄てたから もう わたしはただのおんな
寝台の上 仰向けになり あなたの重みを受けとめる ために
背の翼
邪魔でした 翼
それが堕天の理由のすべてです。