財産
ふるる

随分と明け暮れた
袖が長くなった
言葉は短く
体毛は薄く白く
はかないものに近づいていく

そんな母に高齢の魔女たちが詰め寄り
うらみつらみの思い出話に花は咲かずに散りしきる
というような話を
紅く燃え盛る山々を見ながら叔父とする

遺産とは生を受け守り育てられた行為なのではないかお金ではなく
ならば皆平等に生かされて今では
よく転がりそうな樽
枯れ木じみた魔女などに見えるが
健康ではある母の妹たち
現金は即株につぎ込んで数字を睥睨していた祖母は
床が腐って抜けるほど質素だった
広大な土地を持っていたのは叔父しか知らなかった
姉たちの狂騒を予測し
早々に相続権を放棄した叔父は相変わらず宇宙人じみている

あどけない母を相手取り
調停や訴訟がおそらく始まり
ありとあらゆる手続きが私にのしかかるだろうと言ってみる
それが生きるという事で
戦っていないものなど一人もいない
と叔父は言う
リングから降りるのも手だが
お金は大事だからね
ほとんど物を持たない叔父は
広大かつ深遠な数の宇宙と関係を持ち
常に忙しく世界の成り立ちを演算している
整然よりも渾沌よりのい出立ちだが
訪ねてくる卒業生は多いらしい

財産とは形あるものだけでない
叔父は持てる者
幼い母は持てないで幸せ

現金は全て寄越せと昨日も長々と魔女たちが呪文を述べていった
少しでも少ないと嫌なのは何故だろう
ねたんだり、うらやんだりするのは何故だろう
脳がそういうふうにできているらしい
それをなだめるにはどう、
とここで強い風が吹き
もう帰ろうと叔父が言う

つまらない話を
宇宙人じみた叔父が
意外とよく聞いてくれる
それもこうなっているから得られた財産なのだろう
綺麗な落ち葉だと拾う姿を見ながら
静かに思う





自由詩 財産 Copyright ふるる 2021-11-13 22:29:25
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