多重人格は好きにはなれないけれど
st

最近
ライカの70年も前のレンズに夢中になっている

ズマリットという名前だが

現代のレンズでは決して得られない
その写りが面白い

プロの女性写真家が
好んで使うようになってから

人気が沸騰し

中古市場での価格も
ウナギ昇りとなっている

このレンズについて
ある人いわく

このレンズ1本で
他の性格の異なるレンズを
3本持つのと同じ事

という
まるで多重人格の人間のような
不思議な魅力を持っている

絞り開放では
ゴーストやフレアーが目立ち

まるで
ソフトフォーカスのレンズのように振る舞い

女性のポートレートなどで
非常に魅力的な写真を創り出す

ボケ味もグルグルぼけとユニークで
逆光時によく現れる虹色のゴーストが美しい

これで1本

ところが
絞りを一段しぼると
その性格がガラリと変わり始め

フレアーやゴーストとともに
確かな解像力を示し始める

これでもう1本

二段も絞ると
非常にシャープになり

高い解像力を持ちながら
独特の柔らかさも感じさせるようになる

現代の優秀な写りのレンズと比較しても
遜色のない

最後の3本目となるわけだ

こんなふうに
コロリと変わる描写のせいで

昔からクセ玉などと語られてきた

現代のレンズは
開放から最小絞りまで

フレアーやゴーストが
極力でないように設計され

シャープさや
高い解像力を保つが

こんなふうに
変化する面白さがない


人間の多重人格となると



とても好きにはなれないが


レンズとなると話は別だ










自由詩 多重人格は好きにはなれないけれど Copyright st 2021-11-12 05:34:04
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