7人の小人たち
宮前のん

私は白雪姫の物語が大好きです。
初めて白雪姫を知ったのは小学生の頃、ディズニーの映画をテレビで見たのだと
記憶しています。その当時はまだ無知だったので、私は小人というのは背の小さい
特殊な人種がいるのだと思い込んでいました。
ところが大人になって生理学を学んだ時、それが間違いだったと初めて知ったのです。

一般にカルシウムは骨を強くするために沢山食べることを奨励されます。
特に成長期には成人摂取量の二倍を取るように、などと言われますが、実は
カルシウムを単独で摂取しても、吸収できずに便の中に排泄されてしまうのです。
ビタミンDというものが存在して初めて、カルシウムは吸収され骨となります。
ビタミンDはイワシの頭なぞに多く含まれますが、実はこれがまた厄介なやつで、
肝臓で代謝され腎臓で代謝され皮膚で紫外線に当たらなければ活動しないのです、
つまりスイッチがオンにならない。
逆に言うと、肝臓か腎臓が悪いか、あるいは日光に当たる時間が少なければ、
ビタミンDは活性化されず、従ってカルシウムは吸収されず、骨は成長しません。
それを知って初めて気が付いたのです、あの7人の小人たちはビタミンD活性化
障害という病気なのだと。

7人の小人たちは職業として宝石掘りをしていました。
だから当然、若い時から一日中穴ぐらの中にいて、日光を浴びずに生活していたのです。
紫外線を浴びなければビタミンDは活性化されず、従ってカルシウムが吸収されません。
昔のことですから労働基準法もなく、労働環境は劣悪で健康管理など無かったでしょう。
おそらくは何年にも渡って仕事を続けた結果、骨が成長できずに小人になったのです。
白雪姫の原作者グリム兄弟は、炭坑夫や宝石掘りと呼ばれる職業の人たちが低身長であることを、
おそらくは経験から知っていたのだと思います、要するに一種の職業病だと。
だから森の中で暮らす宝石掘りの男たちを、ちゃんと小人として描いたのだと思います。
(原作グリム兄弟ってことですが、本当は伝承民話が基になっているらしいですけども。)

白雪姫に出てくる7人の小人が、実は子供でも異人種でもなく、ただ背の低い老人たちで、
ビタミンD活性化障害のための病気だと知った時、私は一種の感動を覚えました。
だって、本来ディズニー映画は暖かくて面白くて夢があって、あの小人たちは音楽家で、
ダンスもできて陽気で気さくで優しくて女好きで、まさか職業病で成長が止まってしまった
ただの老人だなんて、本当に夢にも思わなかったんです。別に悪いことをしたわけでもなく、
一生懸命働いただけなのに、結果として低身長というリスクを計らずしも負ってしまった彼等。
白雪姫とのダンスシーンなんか、一人がもう一人の上に乗って背を高くして踊っていました。
子供向けの物語にそういうシビアな現実が表現されているなんて、本当に嬉しく思いました。

子供に美しいものや素敵な夢を与えることは、とてもいいことだと思います。
ですが、そればっかりを与えたいと願うあまりに、現実に存在するシビアな問題から、
子供たちを隔離したがる人を時々見かけます。私はそれを正しいやり方だとは思いません。
もちろん子供は判断能力が未熟なことが多いですから、間違った知識を覚えてしまったり、
色々な問題は生じるとは思いますが、だからってシビアな現実から隔離するのはおかしいと思います。
たとえば、ある小学校では運動会でカケッコするのに順位をつけません。運動会では家族と子供が
一緒にお弁当を食べません。あるいは学芸会で、主役の無い劇(全員主役の劇)をやっています。
先生に理由を聞くと「一番になった子や主役の子がイジメにあうから」とか、
「家族が見に来られない家庭の子が可愛そうだから」とか、あるいは「競争で最後になった子や
舞台の裏方の子がイジケルから」だとか言います。やはりそれは違うと思います。
現実から目を背けても、いつか必ずその問題は大きくなって、自分を追いかけてくる。
そういうものだと思うからです。

白雪姫という物語は、子供に夢や希望を与えるだけでなく、ちゃんと現実に存在する
問題にもシビアな視線をさりげなく(本当にさりげなく)投げかけています。
一生懸命やって何か得られても、結果として別のリスクを背負うこともある、と知ること。
それはたとえば、競争をすれば一番の子も最後の子もいる。劇をやれば主役の子も裏方もいる。
色々な家庭があるから運動会を見にきてもらえない子もいる。
そしてそうなるのは、自分かもしれない。
そういうことを知るのと同じ意味を持つのだと思います。
現実を知った上で、そういうリスクといかに共存していくのか。
子供たちにはそういう事を学ばせるべきだと思います。
もちろんそれは簡単じゃないとは思います。ですが白雪姫のアニメ中の7人の小人たちは、
別に低身長を卑下することなく、おそらくは淡々と受け入れて、陽気で親切で勇敢で気さくで、
本当に人生を楽しむ名人のように思いました、不自由だけど不幸ではない。
本当に子供たちに教えるべきことは、そういう部分なんじゃないか。
白雪姫を見るたびに私は、そう思わずにはいられないのです。



散文(批評随筆小説等) 7人の小人たち Copyright 宮前のん 2005-04-27 23:54:07
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