秋の物語
塔野夏子

澄んだ秋のむこうに
傾いてゆくやわらかな光があり
時折 小さな風がうごき

耳はおのずから澄まされてゆく
この秋の虚ろをよぎる
ひそかな呟きのようなものに

それはひくく何かを語っているようで
けれどその言葉は聞きとれず
しかし不思議に心地よい韻律を帯びて

語られるそれは
きっと物語
始まりも終わりもない

いやきっと常に
始まりも終わりも内包しながら
めぐりめぐる物語

澄まされた耳はそれを聴く
つつましく やがてなかばうっとりと
聴いているそのうちに

やわらかな光は遠く傾き
小さな風がうごいてゆく彼方で
かすかに 虹がそよぐ

 


自由詩 秋の物語 Copyright 塔野夏子 2021-10-31 11:09:38
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