秋の物語
塔野夏子
澄んだ秋のむこうに
傾いてゆくやわらかな光があり
時折 小さな風がうごき
耳はおのずから澄まされてゆく
この秋の虚ろをよぎる
ひそかな呟きのようなものに
それはひくく何かを語っているようで
けれどその言葉は聞きとれず
しかし不思議に心地よい韻律を帯びて
語られるそれは
きっと物語
始まりも終わりもない
いやきっと常に
始まりも終わりも内包しながら
めぐりめぐる物語
澄まされた耳はそれを聴く
虔しく やがてなかばうっとりと
聴いているそのうちに
やわらかな光は遠く傾き
小さな風がうごいてゆく彼方で
かすかに 虹がそよぐ