雨時計
新染因循


雨時計とは雨のふる街をさす
誰もが知らないふりをしたことだが
秒針は環状線のアシンメトリーに似ていた

夜、神話としての男と女が踊り出すと
点と線をむすぶようなあいまいさで
ビニール傘と電波塔の鋭角が回転しだす

地層のように家々が静寂をこらえる傍ら
スタンド灰皿の受け口から水面まで
かききえてしまう焔がある

(かすかなもの は)
(なくなってしまったもの)
(なくしてしまうもの)

煙草につけられた希望という名や
それをふかしている皺だらけの老爺
あるいは 道ゆく人の明日の予定

横断歩道でびしょ濡れになって
雨にだけは覚えていてほしいと
そう言ったきみの顔を忘れようとした

車窓にかかる雨粒をかぞえる人は
対角線によこたえたことばを
円周の定点のひとつとして観測する

煙草の煙で輪っかをつくろうとしている
きみはrの発音がうまくできないから
この雨もきみのついた嘘だったんだよ

簡単にならべられた偏微分方程式たちが
いくら時間という変数に戸惑っても
明日もきっと、雨時計


自由詩 雨時計 Copyright 新染因循 2021-10-21 21:51:08
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