潜行
ひだかたけし

眼が在り映り凝視し続ける眼に
脳裏の戦場の消えない殺し合いか
眼前の草むらの裸の子供たちの激しい絡み合いか

展開され焼き付けられるその光景

草むらの草いきれも
左足にぐるぐる巻かれた包帯の中で腐乱していく肉も
置き去りにして
虚空の孤立した氷塊に貼り付く老人の眼

微睡んでいる子らの裸体と死んだ魂の肉体
交錯し遠去かりながら
その脳髄に一瞬燃え上がった黒炎に

)お前は何を見た?何をしていた?俺は見たぞ全て観た

凝視はしかしその強い発語にまで到達する力を得ずに突如の衰退虚脱
惚けて只虚ろに顔を強張らせ
その痩せこけ浮き出た頬骨コツンコツンと松葉杖に打ち付け炎の消えると
天に舞い上がる小悪魔の哄笑高らかに

)ただの頭のおかしいお爺さんだから大丈夫

裸の少女の宙に浮く声
少年は裸のまま
真の恐怖の在り処を知る



自由詩 潜行 Copyright ひだかたけし 2021-10-16 00:00:57
notebook Home 戻る