振景
木立 悟




土に倒れた鉄の飾りに
剥がれた壁のかけらは積もり
錆の網目にふちどられてゆく


誰も住むことのない家が
はじめからそのために建てられたかのように
灰と緑にとけこんでいる


樹の先端へ
雨は近づく
低い波が
鳴りつづけている


鏡のなかを
雨音が通り
窓には星の生まれる姿が
午後の色に繰り返される


遠い心音
触れる湿り気
頂と裾野
振えのみなもと


どんなにどんなにやわらかくとも
痛みを持たない波は無く
歩むものは目をふせ歩み
光の胸さえ聴きとろうとする


つまびく指は逆しまに触れ
つぼみの笑みの陽に触れる
水が水を梳く音をたて
指は葉の裏のかたちをなぞる


白でありながら白に似ず
音を放ちつづける色
雨が大きくまわす世界の
瑞々しい花でありつづけるもの
常に常にふるえる世界の
独りの花に生まれ散るもの








自由詩 振景 Copyright 木立 悟 2005-04-27 13:40:04
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