八朔食べたい
坂本瞳子
八朔が食べたい
いまは季節じゃない
けれどそう思ってしまった
こうなるともう
居ても立ってもいられず
ただただ八朔が食べたい
近所のスーパーにも
コンビニにもデパートにも売ってない
遠くのスーパーにも売ってない
高級果物店ならあるだろうか
地球の裏側ならあるだろうか
どこまでなら行けるだろうか
なぜだかもう無性に八朔なんだ
なぜ八朔なのかは分からないけれど
もうただただ八朔なのだ
外の皮を向いて
白い筋を丁寧に取って
薄い皮も向いて
全部の房の皮を向いてから
あのジューシーなオレンジ色の
みかんよりも一回り大きなそれを
汁を垂らしながらもしゃぶりつくように
全部を一気に食べ尽くしたい
頬が膨らむほどいっぱいに頬張って
一気に噛み潰して口の中をあの
甘酸っぱい液体で一杯にして
もうただただ八朔
八朔を食べたいだけ
それだけなんだよ八朔
ただただ八朔が食べたいんだ