ありがとう、おやすみ
ホロウ・シカエルボク


ときおり
訪れる
叫びの衝動
だけど
そいつを
信じてしまったら
たぶん
終わりの始まりだろう


暖かいとも
冷たいとも
言いがたい
どっちつかずの夜
寝床の中で
狂人のように
霞んだ目を見開いて


そこからの景色は
いつまでも変わらない
いくつになろうと
どこに住もうと


本当のさよならを言うときが来る
望むと望むまいと
そんなときがきっとやってくる
最後に目にする背中が
きみじゃなければいいな


ぼくたちは勝手だ
自分のパズルに
誰かを当てはめて
一枚の絵が出来るって
真面目に信じてる


ぼくはいびつだ
いつだってそう言ってきた
でも、ぼくもきみも
そんな言葉に
すっかり慣れてしまって
いつかしら
そんなこと
本当だって思わなくなっていたのかもな


ぼくらはみんな
それが叶わないと知りながら
だれかを信じようとする
さようなら、さようなら
ほどよい右手の振りかただけが
妙に上手になってしまったと気づいた夕方
あのとき、ぼくのそばに
どんな武器も見当たらなくて本当によかった


いつからだろう
音楽が流れていないと
眠ることが出来なくなったのは
しんとすると
余計な音が聞こえてしまうから
連れて行ってくれるものを求めてしまう
表通りを走り過ぎる車の
ちょっと非常識なボリュームで流れているラジオが
午前零時を告げながら遠くなって行った
そういうのって、ちょっと
珍しい出来事だと思うんだけど


いつの日か
懐かしい絵画のように
語れるといいね
眠りはまだ遠いみたいだけど
もしか言いそびれたりしないように
おやすみを言うことにするよ
そう
黙って
右手を静かに振るみたいにね


自由詩 ありがとう、おやすみ Copyright ホロウ・シカエルボク 2021-10-07 09:40:24
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