夢明列車より
津煙保存


あすへ かえりたい

         。

 明けの星
 大きな鳥が舞う 静かな街
 ぼくは飛び乗ったのだ
 
 正しいものを、正しい答えを、正しい何者かを、
 真実を探して、答えを求めて、道を歩き続けて、
 
(空は遠く石膏の目をしていたけれど)

 
 駅を過ぎ、乗客たちと向かい合い、
 行くべき場所へ、ボストンバッグ一つで、
 読めない本を忍ばせ、ぼくは鉄路を通過した。

(いくつかの駅と列車と乗客たちとすれ違いながら)


 顔が赤く染まり、他人の視線を避け、身を隠したくなる。
 避けることはできない。クロスシートに潜もうと。

 時は流れ、忘れ去り、笑い、思い出し、赤くなり、

 恥は現実の、
 冷静や無知についての体験、
 一つの現実そのもの。

(明かされないままに)
(さびしい改札には朱のポストに鴉が留まる)


 見知らぬ街、見知らぬ空、見知らぬ人、
 駅のホームに乗客は一人、ぼく、だったろう。

 背後には山が聳え、黒々と影をおろし、
 空の下で動かず、謎めいた、不動の三角として。
 山の視線の先には、白い街並みがあった。
 
(やがて破線も消え)


 時間があった。 
 呼吸をしていた。
 
 音楽が流れていた。
 眠りのようにすべてが。

(舞い降りてくるものを見ていた)
(雪ほど黒いものはと誰かの言葉を知っていた)


 
     しらなかった
    
     肩に背に、足元に額に、胸やポッケに、
     山や街、斜に吹く冬の風に従い舞い散るもの、

     手のひらのなかで消えていく、 
     うまれるようにふりしきるもの、

                    


 列車は走り出し
 鉄路を進み続けた
 無知 
 偶然 
 迷妄の鉄路を

(犬が水を掻く)
(水が犬を泳がせる)
(はみ出した者は如何にして進むだろう)
(進むことを為さなくなるだろうか)


 
                。

 蓮の喩えをおもう。
 蓮は、泥地に根を張る。

 茎を伸ばし、大きく花弁を開く。

 走り去り、通り過ぎた駅。
 いくつもの昨日や明日、見知らぬ場所や人。

 わからない。変わらない。

 明日に向かいながら今日を過ぎ、
 昨日を思いながら明日を描き、


 この体と心は接続する、
 連結部はひんやりつめたく、
 ときにあたたかい、
 明滅のシグナル、
 をくりかえす。

           。

 日々の泳法により変幻していく

           。
  
 泥と水にありながら伸び続ける
   
           、

 支え、伸び、開く、ための 

           、

 光や微細なものたちとともに


 
ぼくは向かうだろう
いつかの季節 日々 いつかの乗客たち
空の下で 夜のなかで 亡霊だった
そして 引き返すことも 知った 
美しかった 間違い だった 
つかめなかった
すべて 
 
 てのひら 
 おんがく   
 
  ゆき






自由詩 夢明列車より Copyright 津煙保存 2021-10-02 11:26:24
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