背伸び
本田憲嵩

僕は僕の切っ先を少しだけズレて生活をしました
僕は僕の切っ先を少しだけズレて背伸びをしました
僕は僕の切っ先を少しだけズレてガラケーから最新のiPhoneに買い替えました
僕は僕の切っ先を少しだけズレてあなたと一緒にタピオカなんかを注文しました


僕は僕という存在を大いにズレてあなたを牡鹿のように追いかけて
愛の告白の言葉
僕は僕の本来の就寝時間をおおいに延ばして
あなたとのLineのやりとり
夏の星座の下を見えない電子の伝書鳩が行き交いました


恋愛とはとどのつまり自分という範囲を大いにズレてゆく
ということ
そう みずからの意思でズレること
そうやって少しずつ近づいて
やがてはあなたとぴったりと重なるようにする
ということ
そして別れる時は太陽(あなた)からどんどんズレてしまい
やがては完全に離されてしまう
ということ


そう あの夏の夕暮れに見た白い雲が
ちょうど太陽にさしかかって金色に輝いたように――



自由詩 背伸び Copyright 本田憲嵩 2021-09-28 22:50:23
notebook Home 戻る