二十一歳の呟き
板谷みきょう

いつも心の中は北風が吹いている
おりしも外は吹雪


開き直りと空威張りと痩せ我慢


肩を落としてうなだれるか
肩をいからせ開き直るか
僕の生活どちらかひとつ


空はいつまでも青色でいれば良いのに
雲がそれを邪魔する
眺めている地面だって
夏には草で覆われてしまい
冬には雪で覆われてしまう
人の心も同じもの


タイルの上に落ちてる煙草の灰を
無造作に人々は踏んで歩く


雪解け水が轍の跡を流れている
でも夜になると
その水さえカチカチに凍ってしまう
再び空に帰ろうとする雪の目論見がパーになる


ぜんまい仕掛けの心のバネが弾けて飛んだ


死ぬまで嘘をつき通そうかと思った


ねぇ
想いのやり場に困っているのさ
そんな想いは捨てちまえ


雨上がりの闇に佇む街灯の寂しさよ
青白き炎にも似た明るさに喝采を送る人の影もなし
雨雲たち込め全ては闇に包まれ
誰が為ともなく
濡れそぼりし大地を照らす事こそ哀しけれ


鯉幟は風に吹かれて
五月の晴れて澄んだ空に泳いでいる
それを見てはしゃぐ程の年でもないし
素知らぬそぶりの年でもなし
枯草野原の早咲きのたんぽぽの思いやりに
嬉しく思っている
山肌の薄桃色に咲くかたくりの花
誰に見せる訳もなく
毎年咲き乱れている


雨に打たれて鯉幟が
風に流れる事も出来ず
竿に寄り添っている


きっといつかは
思い出してくれると
信じるしか仕様が無いぢゃないか


昨日を思い出すたびに
明日が来るのが恐かった
明日を恐がり過ぎるため
今日一日を置き去りにした


虚飾で身を包み嘘しか言わなくなってた僕が
少しづつ虚飾を捨て
本来の姿を現し始めている
落ち着いてる生活とは見せかけだけの
虚ろな生活とでも言うべきでしょうね
本来の姿と呼ぶ己れの姿も
やっぱり虚飾でしかなく
それはまるで
メビウスの帯とでも表現するしかない
いつまで経っても最終のない空回り
残るのは空しさだけ


日差しは夏を思わせ
蒲公英が満開の野原を見付けた
仕事の帰りに寄ろうとして
陽が西へ傾きかけた頃
僕を嫌悪した蒲公英の花は
みんな閉じていた


音がないはずの深夜
耳の奥で鳴り続ける鈴の音は
本来の姿だと
勝手に信じているだけの自己満足でいる
偽りの衣を身にまとっている僕への警告の様で
そんな時にふと
蛙の声突如聞こえ始める


星見上げれば雲それをはばむ様


あきれはてる程の自己に沸き立つ
我の意味の無き含み笑い
不安定な状態を何とか安定に持って行こうとする
ただの防衛的感情なのでしょうさね


蛙の声さえ 聞こえないよ


掴まえていたはずの心が
何処かで消えた
それは青色の瓶が
深い海の底へ沈んだ様に
確かに存在しているのであろうけれど
実体を掴めぬ不安の中で
以前と同じ様に
笑顔だけは飛び交う


心の中に傷を付けてしまった様だな
思い配りも未熟さのせい
眠っていても忘れられない癖に
眼醒めてる時は忘れたポーズ
演技指導は誰?


パタパタと殿様バッタが
つなぎとんぼを追いかける
力尽きて地面に落ちると
何処で見ていたのか雨蛙
晴天の下で笑い始める


町全体が黄金色に輝いている
ガスに包まれ一段と冷え込みの強い朝
なのに生きてる蝿…
蝿 蝿 …


熟れ稲の上に身を屈め
刈り入れの時期も終わる
陽が沈むと急激に寒くなる
川面に写る星明かりの慎ましき輝き
肩に止まる蜻蛉のかぼそさ
全ては自身の心情が反映した
自然描写でしかない


雑多な配色に感嘆の息を漏らす人々が
今まで不思議で仕方無かったのですが
こうして実際目前に紅葉と面していると
その美しさに眩しささえ
感じてくるのです


精一杯化粧して木立の木の葉が散り始める
忘れないで
忘れないでおくれ


振り返ると行為は若さ故のとうろうの斧


狂気の智恵子に対する光太郎の愛が昇華されて
『智恵子抄』という作品がうまれたのなら
光太郎の愛は
アガペだったのでしょうか
エロスだったのでしょうか
何故か気になっているのです


きっと愛とは実像を認めた上で
永続的に与え続ける事なのでしょうね
そして恋とは
実像から理想的虚像を築き
実像を否定した上で
求め続ける事なのでしょうね


警戒色と保護色を比較すると
保護色の方が謙虚な様で
好感が持てる事実


朝遠く山々が白み冬を告げ始めた
なのに
夜中に突然降ってきた粉雪
これぢゃあ雪虫の出る幕が無いぢゃないか


クリスマスキャロルのないイブの夜は独人
何の望みがありましょう
ただ今日という日が終わる事に
立ち会える身がありながら
これ以上何が欲しいと言うのでしょう
御心のまま流される身
私の任が出来る限り成し遂げられること


想い焦がれた女々しい心など
焦がれついでに燃え尽きてしまえ


心変わりしたんじゃなく
初めから
こういう付き合いだったのかも知れない


年の瀬を感じさせない心のゆとり
俗界と離れた修行の身
どこが寂しいものか
時折時を持て余すだけのこと


一将功なりて万骨枯る
僕が枯る事で
一将が功なすのであれば
万骨となる事を強く望みます
何故なら私は私自身が無力で
無意味に枯る可能性を秘めてる事を
熟知しているからです


望んでいたのは心の中の暖かいものを
誰かに託す事ではなく
自らが具体的に現す事なのです


自由詩 二十一歳の呟き Copyright 板谷みきょう 2021-09-28 22:23:28
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