二十歳に書いた歌詞 
板谷みきょう

 『この春に』
私十九のこの春に命を捨てに参ります
積丹半島神威岬念仏トンネルくぐって行きます
私の好きなあの人は関係無いと行ったけど
耳の聞こえぬその事であの人の親が反対しています
都会じゃ権利を主張して世間は認めてくれたけど
こんな田舎の漁師町では家にひそんで生活しています
聞こえぬ事をいいことに喋れぬ事をいいことに
何をするにも笑われて今まで幾度も騙されてきた

仕事をしようと思っても聾者と知ると断られ
やっと見付けた縫製工場手まねの話しで職場の人が
聞こえぬ喋れぬその他のどこが違うというのでしょう
誰も解ってくれなくて解ってくれたあの人も 今 …
手まねで話をしていると皆が指さしコソコソと
手まねで話をする事がそんなにおかしな事なのでしょうか
泣いてこの世を恨んでも父さん母さん恨んでも
今更変わるすべも無いどうにもならない仕方のない事

私の好きなあの人とこの世に二人きりならば
親も世間も気にせずにこのまま二人一緒になれたのに
聞こえぬ事はさだめだと諦める事も出来ようが
彼と別れるその事はさだめにしてもあまりに辛い
自由・平等・民主の旗 掲げた国のはずなのに
人と産まれたそれだけで何も隔たりないはずなのに
福祉国家といわれても最大多数の幸福で
そこからあぶれた者達は恨むあて無く泣き寝入り

なのに今も誰も解ってくれない

私十九のこの春に命を捨てに参ります
積丹半島神威岬念仏トンネルくぐって行きます

そして私あなたの笑顔を胸に秘め

私十九のこの春に 私十九のこの春に…

*★*――――*★*

 『道化人形』
寂しい時に笑いのお面
弱虫を気付かれない様に
舌先三寸空騒ぎ
皆の中で笑い者
お道化て お道化て
笑って 笑って
お道化て お道化て
笑って 笑って

悲しい時は道化の仮面
泣き顔を見られない様に
人の喜ぶ顔見たさ
おだてに乗って道化者
お道化て お道化て
笑って 笑って
お道化て お道化て
笑って 笑って

気が付くと僕はステージの上
一筋のスポットライトを浴びている
水玉模様のだぼだぼのシャツ
素顔の上の厚化粧
お道化て お道化て
笑って 笑って
お道化て お道化て
笑って 笑って
お道化て お道化て
笑って 笑って
お道化て お道化て
笑って 笑って

今では 涙しても
笑顔の化粧は落ちる事もなく
操る糸が絡まれば
動きのとれない 道化人形

*★*――――*★*

 『悔やみ言』
語る程の夢もなく
こうして命からがら生きて来たけど
やる事なす事
嘘だらけの自分の心をポケットに入れ
いつまでも作り笑いしていて
それが優しい気持ちだなんて
恨みを抱いてトゲある言葉
むやみやたらに街へ出て
口笛吹けばそれが若さだなんて
こんな事ならあの時
がらんどうの念仏トンネルを抜けて
潮の香りが眩しく匂う
神威岬から飛んでいたなら
今頃幸せな
海の藻屑となっていたでしょうに

振り返る程人生も歩まず
いつものんべんだらりと過ごして来たけど
見て見ぬ振りして
人を奈落の底に突き落とし
そして又歩き始めて
それが正直な生き方なんて
焚火を囲んで酒を飲んで
大声出して流行り歌
肩でも組めばそれが青春なんて
こんな事ならあの時
六階のベランダから身を乗り出して
両手を開いて静かに眼を閉じ
そのまま地面に引き込まれていたなら
今頃幸せな
風に舞う砂ぼこりとなっていたでしょうに

*★*――――*★*

 『青春志願』
日向臭さで目が覚める 
布団取り合うお前と俺の
そうさ青春真っ盛り 
男らしさの汗臭さ
怒鳴り 怒鳴られ 
殴り 殴られ

太陽の光に輝く噴水 
芝生に寝転ぶお前と俺の
そうさ青春ひとおもい 
弄ぶよな恋はなく
想い 想われ 
振り 振られ

ビルの谷間に沈む夕陽 
体に浴びるお前と俺の
そうさ青春志願 
あてない遠回りもいいさ
笑い 笑われ 
泣き 泣かれ

そうさ青春志願 
あてない遠回りもいいさ
笑い 笑われ 
泣き 泣かれ

*★*――――*★*

 『お袋俺を捨てたんだって』
ある朝目覚めたら部屋には誰も居ない
机の上の置き手紙 「さよなら」 とお袋の字
何が何だか解らないまま俺は親戚中たらい回し

親爺とお袋愛し合って一緒になったと
死んじまった婆ァガキの俺にいつも言い訳
呑んべの親爺に愛想つかして家からお袋飛び出したんだと

悲しみは時が忘れさせてくれるけど
お袋が居ないという事実はついて回り
まるで俺の責任の様にガキの頃から馬鹿にされて

いつかは誰かと愛し合って一緒になる
暫くすれば子供もでき物心ついた我が子に
「親爺の母さんどうして居ない」そんな風に聞かれた時に

お袋俺を捨てたんだって
お袋どこかで生きていると
俺の子供に言えるだろうか
胸を張って言えるだろうか
おふくろ

*★*――――*★*

 『ランデブー』
小雨降る中ランデブー
雨宿りの階上喫茶ラブでの一コマ
窓際のテーブルで向かい合わせの
コーヒーとアイスクリーム
煙草を吸う?なんて
カウンターへ駆けて行って
灰皿も貰えず
帰って来るとクリームを
一さじ二さじすくいあげる

流れて来るメロディーは
どこかで聞き覚えのあるフレーズ
窓ガラスを伝う雨の雫 
涙に見えてくる

ミルキー食べる?なんて
カバンから赤い小箱
テーブルの上へ
言葉がないのを
ごまかすために僕はミルキーを口に一つ

頭を抱えて深刻振る程
深い仲でもないし
笑って済む程の
そんな仲でもなかった筈なのに

夕暮れにはほんの少し
間のある時間
あの娘はテーブルの上の
ミルキーの赤い箱に眼を落とし
ポケットの中から石ころ一つ

貴方と歩いた浜辺の小石よ
私大事にするわなんて
あの娘はサラリと別れ言葉
僕は小さく笑って目をそらす

突然の言葉にどうする事も出来ない

空っぽになった頭の中
うろ覚えのフレーズが空回り
無理してあの娘を
笑わせていた作り笑いが剥げてくる
こんな姿を見られたくない
そんな気持ちが一杯
なるたけ無造作に帰ると一言
やっとの思いで呟いた

小雨降る中雨の中
心の中は土砂降りで
僕は駅へ
雨に打たれた肌の冷たさ
気になりはしない

やたら煙草をふかして
背中を丸め急ぎ足
列車のボックスに独り
列車の窓ガラスに
写る自分の顔に馬鹿と言ってみる

貴方と歩いた浜辺の小石よ
私大事にするわなんて
あの娘はサラリと別れ言葉
僕は小さく笑って目をそらす

*★*――――*★*

 『Bye-Bye』
いつもいつの時も思っていた
ホステス稼業はつらいかい
いつでも帰っておいでよ
だけど
生活するのに追われて
生きることを忘れてしまい
どうにもならないそのままで
うわべだけの華やかさにしがみつき
今日一日を過ごしてる
そんなアンタじゃBye-Byeさ
いつでも別れてあげようか

いつか知らない内に忘れられる
浮草稼業は悲しいかい
いつでも帰っておいでよ
なのに
冷たい布団にくるまって
声を殺して泣いたって
どうにもなろうはずもなく
飲めない酒無理して飲んで
明日の笑顔作ってた
アンタの方からBye-Byeさ
命を捨てていたなんて

生きてる証もないままに
全てを無くしてしまった
それでアンタは満足かい
気付いたオイラは
ただ唄う事だけしか
出来なかったよ
アンタとオイラの関わりに
ただ それだけが残された
アンタとオイラの関わりに
ただ それだけが残された

*★*――――*★*

 『鬼さんどちら』
見渡せば行き止まりだらけのこの世では
計算高い似非慈善家達鋭く尖った牙隠し
人の不幸をよだれたらして待ち望む
人の気持ちも思いやれない考え無しの人間が
生きていた時気まぐれに情けをかけた蜘蛛一匹
恩着せがましく地獄の底でいつ又降りて来るのかと
仰ぎ見て待つ蜘蛛の糸
あぁ可哀想なのは善人面した人間様よ
今度こそは極楽へなんてね

眼が見えなけりゃめくらでさ 
耳が聞こえなきゃつんぼでさ
喋べれなければおしだってさ 
足が悪けりゃびっこだってさ
人の心はゆりゆられ 
人の心はゆりゆられ
誰もが気付かず鬼になる 
俺もアンタも鬼になる
鬼さんあちら手の鳴る方へ 
鬼さんそちら手の鳴る方へ
鬼さんこちら手の鳴る方へ

愛想笑いを浮かべながら地獄の底で
思い巡らす似非慈善家達極楽へ着いてから
下から追いて来た亡者共を蹴落とそうと
人の事など考えられない独り善がりの人間が
蜘蛛を助ける御為ごかしを馬鹿のひとつ覚えの様に
鼻に付く様なわざとらしさでいつでも蜘蛛を助けると
あっちでこっちでそっちでむこうで
あぁ可哀想なのは善人面した人間様よ
今度こそは極楽へなんてね

眼が見えなけりゃめくらでさ 
耳が聞こえなきゃつんぼでさ
喋べれなければおしだってさ 
足が悪けりゃびっこだってさ
人の心はゆりゆられ 
人の心はゆりゆられ
誰もが気付かず鬼になる 
俺もアンタも鬼になる
鬼さんあちら手の鳴る方へ 
鬼さんそちら手の鳴る方へ
鬼さんこちら手の鳴る方へ

*★*――――*★*

 『我祖先我故郷』(わがそせんわがふるさと)
うっそうとした原始林の中を
熊がのし歩き鹿が走りまわる
その地で冬のしばれにも耐えながら
切り拓き田畑を作った私の祖先
その開拓の精神は今も私の血の中に

山に泣き山に笑い海に泣き海に笑う
土に泣き土に笑い空に泣き空に笑う
いくたびも季節は巡る

柔らかな日差しの野原で
鳥がさえずり蝶が飛び交う
その地で何の言葉もないまま
土地奪いアイヌを追いやった私の祖先
その悲しき精神も今の私の血の中に

車の行き交う華やいだ街に
笑っている遊んでる子供達
この地で歴史に残る事無く
生活を築き忘れ去られた祖先達
それでもその精神は今も子供の血の中に

山に泣き山に笑い海に泣き海に笑う
土に泣き土に笑い空に泣き空に笑う
いくたびも季節は巡る

*★*――――*★*

 『電話ボックス』
公衆電話のボックスの中で一晩寝た
背に当たる硝子が冷たかった
もう会う事も無いあの娘を想うと
馬鹿みたく涙が出た
部屋に帰る気は起きなかったけど
やけに寒かった
「私一生結婚なんかしない。」 って
言ってたあの娘を思い出し
「それじゃあ僕が貰ってやるよ。」 って
言った僕を思い出し

硝子越しに見た星は小さ過ぎて
ネオンサインが音をたてていた
車も時々しか通らなくて
広い世界に唯独りの様な気がして
三十円で買ったミルキーを
口に入れた
金も無いくせに「一緒になろう。」 って
真面目に言った頃思い出し
「考えておく。」 ってふざけて答えて
はぐらかされた頃思い出し

目醒めたのは明け方で
ポケットの中の結婚式の招待状は
折れ曲がってた
灰色に近い空の青さの中に
見過ごしてしまいそうな
白い月が貼り付いていた
体のあちこちが痛かったけど
帰る気はしなかった
そこから僕は当ても無く
アスファルトの坂道を歩き出し
何台もの車に追い越されながら
思いがひとつ
このまま死ねるものなら
死にたかった


自由詩 二十歳に書いた歌詞  Copyright 板谷みきょう 2021-09-27 21:17:47
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