二十歳の呟き
板谷みきょう


私は皆が羨ましいのです
生きている事
自己の存在を正当に思える事が


二十歳までの自殺は
やたら御涙頂戴的な悲劇の象徴にも関わらず
二十歳を過ぎると
やけに御笑いな敗北の象徴になっちまう


このごろ生きているのが
理不尽な事の様に思えてならない


お互いに同じ事を言っているのに
言葉が違うために議論して傷付けあっている


春が近付いて来ている事を笑顔で感じている
段々 暖かくなって
雪が死んで逝っているにも関わらず


夜 冷たい床に入ると
そのまま冷たくなってしまえばなんて思って
息を詰めたりしている


僕が存在する素因はあったにしろ
偶然の重複に因り 無から有になったにすぎず
不安定な有であるからこそ 必然的に無に到達する
とすると
真の姿が無なのであって 有で在る事は虚像であるのだ
すると存在自体が偽になってしまうのだから
そこで行われる行為全てが
事実だとしても真実ではないのだろう
なのに何故 皆やけに気後れもせず
悪びれもせず生きていけるのだろう


臆病と優しさの勘違い 卑屈な程の思いやり


ざらめ雪に足を取られてしまって 歩きにくくて仕様がない


空しさや切なさや悲しみで 胸が張り裂けそうだ
いっそ 張り裂けてしまえば楽だろうに
やるせないです


存在する意味や理由を探していた
偶然であれば意味も理由も無くなるのに
存在理由を見い出す必然は現に存在している
存在理由を問い続ける事自体が
存在理由になるのであれば
何故に疑問は生まれ続けてくるのだろうか
ここまでくると もう解らない


星の王子様をもっと深く読めていたら
こんな僕にはならなかったろうに


木枯らしの季節は僕を暖かく包んでくれた
開き直った心の中をすきまっ風が吹き荒れる
今日は やけに太陽が眩しい
昨日にもどれるのなら昨日に生きたいよ


作り笑いを憶え 嘘泣きを憶え 知らん振りを教えられ
人前での お為ごかしも習わされ
世渡りが上手くなる様にと 被る猫を貰い
どうしようも無い時は 頭を抱えて
逃げる事を覚えた


価値を見い出す事が生きる糧であり希望であり


十八の僕は二十歳までに死ねば綺麗なままだと
十九の僕は二十歳過ぎの無樣な自殺がお前らしいと
二十歳を迎えた今日の僕は昨日の僕と何処が違うのだろう
唯一つの救いは
誰も僕が二十歳になった事に気付かないこと


所詮 生きてるって事は単なる惰性でしかない
頭は過去を考えてるのに眼は未来を見詰めている


行為と思考の矛盾に精神は無に解決を求め
肉体は己れを傷付ける事を拒み続ける


蛙は井の中を大海と思い続け
実際の大海を拒み続ける事によって
自己の真理を築いたのである


二十歳は今までの禁止事項に対する緊張の崩壊を生み
二十歳の解放は目的を失った倦怠と憂鬱を生産する


空にたんぽぽの綿毛が飛んで行った


成人式はいやだね
二十歳の若さの大安売り
まるで神妙な顔してるんだから


結局は独人なんだ
解りきった事なのに
人込みに紛れたら忘れてしまう


狂気のニーチェを知った僕は彼を真理と思った
ツアラツゥストラは言葉の遊び
古本屋は六百円もくれた
ツアラツゥストラは消えた


なんて僕は物憶えの悪い阿呆なのだ


鳥はヒバリが好きだ
天高くピチピチ鳴きながらお日様を追う


僕の利他を望む行為は偽善です
こうしなければ生きていけないのです
皆様 御海容を
涙ながらの心の内も口から出れば御手盛り行為


時が過ぎ去る事に悲しみはない
センチメンタルになっただけ
下らぬ事だと知りながら
空白の時間の苦しみを何処に捨てれば良いのだろう


自信は経験が生み出した傲慢でしかない
素直とは追従なのか独善なのか
僕は正義という盾で傲慢を我田引水してるのだ


思想を二元論で考える
死が善か悪かは生によるだろう
生と死が相対しているか否かは自らの解釈による


己れの思考を文章表現出来ぬ未熟さに
腹立たしさと苛立たしさを感ずる


内部から沸き出てくる
羊の肉の如く
熱き血潮の滴り落つ程に
これが若さだったとは
逆さに吊され
煙でいぶされ
真っ黒き干からびた血液
年老いる事もなく
老いをしいたげられて
全てが無の所有物と化す
想い耽る…
老いて干からびてしまったこの肉体に
カミソリの冷たく刃を当て
切り刻む事をすれば
自身も他の笑い人形同然に
ほとばしるであろう血液を


悪魔色の頭髪の全て
引き抜きたき欲望を抑え
喉元から口元へ飛び出そうな我が心臓
弛緩した口元を引き締める事により
落ち着きを取り戻す
無に帰する事の出来ぬ苦悩が叫ぶ
声にならない声
その中で誰にも知られぬままに
静かに我が心臓は血液を送り続けるであろう
お前の体内へ


死後の謹み忘るるべからず
綿の優しさ口に含みて


年を取る事は悲しいことだね
風に流されていった僕の影を皆が踏みつけている


この世で産まれて初めてした呼吸は
呼気だったのだろうか
吸気だったのだろうか
その時に
無限に広がりを見せた未来すら
いつでも過去に出来るんだよね
この世から死んで逝く最期にする呼吸は
呼気なのだろうか
吸気なのだろうか
今はそれが気になる


身を切られる様な切なさの中で
窓から外を眺めると軒先から血の雫が
ぽたり ぽたり
脂肪の塊が清純な青空に貼りつき
肉欲を晒けだす


暑い盛り真っ黒い顔からこぼれる白い歯は
綺麗につくった若さです
涙は頬を伝って流れるだけぢゃなく
鼻水となって唇にかかってくるのです
負けず嫌いの太陽は
昼の間は かっ〓 と照りつけているけど
きっと西の空に沈んだ後は
布団の中で声を殺して泣くのでしょうね


暑さの為に
中途半端に伸びた髪に静電気が起き
脳ミソがあめてしまっている


雨に打たれてコスモスの花びらが
枯れてもいないのに地面に落ちた


窓硝子でわんわん云ってる蝿をつぶした


俺の様な人間は日の光を浴びて
溶けてしまえば良いのに


まだ自分の中で
死ぬ事が正しんだと言ってる僕が居る


たんぽぽが間の抜けた咲き方でコスモスの隣で咲いている
季節の勘違い代々そう咲いていたんだね
お前の勘違いはお前の代で終わらせてやるよ
僕はたんぽぽを踏みにじる
お前は言いなぁ
踏みにじってくれる俺が居て
僕を踏みにじるのは結局俺しか居ないのさ


薄桃色のコスモスが風に揺られて囁くのさ
生まれ変わって私におなりよ
生まれ変わって私におなりよ


苦し紛れに呻いた言葉でいつも僕は傷付けていた
そんな事も知らずに僕は笑い続けていたなんて


今日知り合いの女性が自殺したのを聞いた
のいろうぜぃ 『脳囲牢税』
減税されてたなら死を選ぶ事もなかったろうに
残された児はどうするの
そんな思いが満ちてきて
-ばっかだなぁ-
僕の唇からこぼれ落ちた
八月二十九日死す
クガツジュウロクニチ シヲキク
馬鹿だったのは僕の方さ


サンサンと輝く太陽を追う事も出来ず
しょぼくれて うなだれている
秋に咲いた向日葵は一体どうすれば良いんだ


ストーブを点けた
この温かさ
ストーブの中で死んでいった石油の最後のぬくもりなんだね


一年四ケ月振りに 煙草を吸い始めた
何故ってかい
「煙草喫みは嫌いだ。」 って言ってたあの娘が結婚したからだろう


邪よりは正を偽よりは真を悪よりは善を
なのに
勝よりは負を強よりは弱を望んで居る
勝や強でなくては正や真や善を成す事が出来ないぢゃないか


舗道を父親が歩き
その後ろを足取り危うく子が追いていく
僕は日の射さぬ部屋の中で眺めている
そこには僕の過去と現在と未来が存在している


雪が降る
肩に積もるとぐっしょり濡れた


煙草の灰はいくら落とさない様に注意しても
いつも中途でポロリと落ちる


真夜中に対象の無い恐れで
手に汗握り冷汗かいて眼醒た事ありますか
枕元に自分の心が転がってた事ありますか
目玉が溶けて耳の穴まで流れてた事ありますか
溶けた目玉をなめている耳の穴から出て来た虫を
見付けた事ありますか
そして
その虫が自分の頭の中に
住み込んでる事を知ってますか


冷たい足を抱え込み布団の中でちぢこまる


僕は顔色ひとつ変えずに嘘を言う様になった


しがらみを思い決断を躊躇しているという事は
あり続ける事に対する余力が残っていると云う事か


クリスマスには早過ぎるのに
郵便受けに一枚のクリスマスカード
不思議でしょうがないのだけれど
なんとなく嬉しく思ったりしている


虚飾的行為が多すぎる概念による威圧をよそう


偽善と知っててやる善をお天道様あわれむ


裸足の素足 踵のとれたハイヒール


匹夫の勇を心に決める
尾生の信を心に決める
この空しさはなんだろう


恋をするならお月さん
イキなおしゃべりも必要でしょうね


精神病棟
涙流さずしての悲しみは四角い部屋の片隅
物を正しくみようとしても集団に負かされて


風に吹かれて皆の首が流されていく
ふきだまりには幾つかの首が笑っている
僕たち皆風の中


背中を抜けた氷のつるぎ
仲良しこよしは誰のため


毛虫から蝶になる
そんな事を信じてたんだ
でも
二十回目の誕生日いつまでも毛虫のまんま


優しさのつもりが臆病だったり
正義のつもりが傲慢だったり
どこで判断すると良いの


正義の炎は燃え尽きた


ちょっとぐれてる唇と対照的な優しい伏せ眼
男の子みたいな女の娘
うつむき加減に話しだす
出てくる言葉は
まるで冷たい氷のレモン いじわるに僕を困らせる
僕がおどけてみせると 座り込んで笑いだす
ホラ 皆が見てるよ
ホラ 立ち上がってよ 早く 早く
ちょっとぐれてる唇と対照的な優しい伏せ眼
男の子みたいな女の娘
笑顔は素敵で可愛くて


花はこすもすが好きだ
でも花になるなら桜がいい
花見に集まった人々の上に
ハート型の花びらを散らす事が出来る
あの娘はこすもす季節が違う
同じ桜と名がつきながら


秩序によって維持されている社会と
律動によって保持されている人込みと
どこに違いがあるだろうか


こんな事しか考えられない臆病な心
幾度後悔を重ねれば寂しさから抜けられるのでしょう


幸せのそぶり
喜びのそぶり
悲しみのそぶり
いつも心醒めてる


自由詩 二十歳の呟き Copyright 板谷みきょう 2021-09-27 21:04:26
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