詩の歌声
ただのみきや
うたごえ・一
空気の花びらが散って
時折ほこりが舞うように
手をふって消える光の棘
うたごえ・二
その肉体は一本の弦だ
わななきながらさまよって
わたしの夜へとけて行く
うたごえ・三
祭壇からスーパーボールがあふれ出す
わたしは微笑んだ誰に向けるでもなく
美はリズミカルに氾濫する
ああ詩のうたごえよ
美しく濁った空
歌には残り香のような余韻がある
それはたましいの空ろに響く木霊
くりかえし求めるのは去り際の切なさ
震動と明滅 あの痺れのような
快楽への転化
感覚主義
じゃなくジャンキー
きれいごとも吐露もすべて
微細な電流の呼び起こす
陶酔への生贄
目の横でゆれていた
芒
見定めれば
まだ青々とした別の草ではなかったか
いま見ている空は本物だが
空と書けばもう小道具
せいぜい美しく仕上げたい
油絵のように厚ぼったく
濁った空へ落ちて行け
初恋神話
二人はしゃがんで向かい合った
少年が両手で掬った水を零さないように差し出すと
そっと唇をつけて少女は一匹の赤い金魚を吐きだした
金魚はゆらめきながらインクのように溶け
あとには澄んだ水だけが残った
少年は目を瞑り一息にそれを飲みほした
少女の差し出した掌をしっかり捕まえて
少年はその清らかな水に一っこのビー玉を吐きだした
ビー玉は青く澄んで白い渦があり輝いている
少女はきつく目と閉じて水といっしょにそれを飲んだ
ビー玉が喉を通る時とても辛そうな顔をして
時が過ぎた
少年には何ものこらなかった
ただ時折その水脈で火の魚が翻るような
何に餓えているのかすらも解らない欲求があった
だが少女の海では今
青い地球がゆっくり体をめぐらせる
未分の夢に 母音でふれながら
《2021年9月26日》