記憶波
塔野夏子

静かな頭蓋のなかで
記憶は波だつ あらゆる襞へ
あらゆる層へ
その波たちは伝わってゆく

記憶はささやき
記憶はつぶやく
かたちを持った あるいは
かたちを持たない
出来事のこと 出来事がまとう
とりどりの思いのこと
ささやきはささやきを呼び
つぶやきはつぶやきを呼び
その連鎖がきりもなく ひろがってゆく

記憶はさざめき ざわめく
木の葉のように 風のように 星のように

そうして記憶は
いつしか静かな頭蓋をこえて
ひろがってゆく
つながってゆく 誰かの記憶の波だちへ
たとえその記憶は
その持ち主にはもう
思い出されることはなくとも




自由詩 記憶波 Copyright 塔野夏子 2021-09-19 11:43:43
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