いま考えると / ある女の子篇
末下りょう



詩人に嫉妬して咄嗟に拒絶した


同じ人間と思えなくて思いたくなくて
深く関わっちゃだめだ
人生を壊される
笑うけど本気でそう思ったし
教室の席でじっと教科書を眺めながら 生まれてはじめて言葉を危ないものだと感じた
言葉は危険だと思った

それなのに家の本棚を漁って埃っぽい詩集をいくつか見つけると 家族に内緒で夜通し読み耽った
バカだ


愚行と集中、いま考えるとそんな言葉の組み合わせを詩に感じて目をそらしたように思う


でも目をそらせばそらすほど 目を瞑れば瞑るほど耳が敏感になるみたいに そのうち好きな子にラブレターを書こうとぐちゃぐちゃ頭を悩ませてる友達が詩人に思えてきて 毎晩忘れずに日記を書く几帳面な妹が詩人に思えてきて 台所にメモを残す母の不思議な筆跡が詩人のものに思えてきて 野球のナイター中継をビール片手に語る父すら詩人に思えてきて だからわたしはその頃だいたい途方に暮れていた



あれからもう何十年もたったいまはオリンピックイヤーの
コロナ禍
それでも夏休みの子供たちが
そこらじゅうで歌うように
風や光 石ころや葉っぱ ノートやスマホやiPad 自らのカラダに
一日じゅう
遊びながら詩を刻んでいる

小さい頃のわたしもこんな風に遊んでいたのかなと
いま考えると
詩を最初に読んだ日に 世界には詩人しかいないことがわたしに明かされていた

いま考えると


自由詩 いま考えると / ある女の子篇 Copyright 末下りょう 2021-09-08 13:42:36
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