べつにお前のリアルなんてどうでもいいよ / ある女の子篇
末下りょう
わたしけっきょく書きたいことなんてないからノート引っ掻きまわしてるだけなんですって言ったら、おまえそんないいもんじゃねえだろって、そりゃそだ
雨上がりの虹をマフラーにして ブラックホールの欠片みたいな目で文字を追ってた人
指を置き去りにする煙草の吸いかたで火と煙に置き去りにされてた人
春のような冬に出会った人
舗装したてのスベスベしいコンクリのブルーアワーの水溜まりみたいなロシアンブルーがキャンパスの講堂を抜けて西瓜町のほうに歩いてくのを何度も見かけて
水色と茜色が滲む空に包み込まれるみたいに眠りに落ちて あの人を何度も見失った
わたしという女の窪みに成り果てるみたく辺りは暗くなりはじめて
海の底のシジミみたいな目をこすってプクプクあの人の帰り道のほうを見ると赤く水っぽい空がいろんな夜の種をプップ飛ばしてて
(ひかりが発酵するみたいに ため息の色をした風の吹く
迷子になれない季節の
水っけだけが強い
街角には
もう)
べつにお前のリアルなんてどうでもいいよ
またあの人にそう言われたくて
毎日を生きてた
なんのしるしもない表通りを ひかりがすべってく 虹のマフラーを棚引かせて遠ざかるあの人の 底なしの眼差しに吸い寄せられるみたく どこまでも