夏の風景
塔野夏子

この胸から一枚の
夏の風景をとりだしてひろげよう
青い湖 まわりは緑の森
そのむこうになだらかな丘々
湖には小さな桟橋 つながれている幾叟かの小舟
ほとりに小さく白い館

そこで僕らは
共に過ごす
(過去に あるいは未来に)
森からは時折
一角獣が姿を見せる
そこの夜空には
三角形ばかりでできた星座が懸かる

そこで過ごす僕らを
しずけさとはるけさが満たしてゆく

やがてやさしい火が降る
夏が終わるとき
やさしい火が降って
森も湖も丘々も 何もかもすべて
透明に燃えてしまう

そこで僕らも
共に燃える
(過去に あるいは未来に)
この胸からひろげられた
一枚の夏の風景もろとも
透明に燃え尽きて 風になる



自由詩 夏の風景 Copyright 塔野夏子 2021-08-29 10:38:14
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