お彼岸
宣井龍人
Ⅰ
卒塔婆を飾る花は何を思う
墓石の影に折り重なり寄り添う人々
7年前の貴方13年前の貴男だろうか
歳月は姿なく容赦なく降り積もる
人々はもうすっかり汚れてしまって
絢爛に咲き誇る花々は一時の華
西に大きく傾く残り火に輝く
Ⅱ
高層ビルの病室の夜景は都市部の見慣れたものだ
辛い病の疲れは意識を薄雲から闇に導く
時間と闇の調和の中を
多くの見知らぬ人達の姿や声が往き来する
目の前に幾多の顔が現れ消え現れ消え
親しい友人のように私に話しかけ
答えぬうちに消えていく
意識だけの存在になった私は
再び闇に帰る
Ⅲ
病室で独り
月と太陽を同時に見ていた
興奮と鎮静が
足元で引きずり込もうとしていたとき
荒い息と吹き出す汗に
何処からか冷たい波が忍び寄る
凍り付いた無音の感触に
体は背後から硬直する
感性だけが支配する空間に私は
確かに閉じ込められた
おまえは誰だ…
Ⅳ
私は外を眺めている
ピアノの前の椅子が定位置
動くことも
声を出すことも
表情を変えることも
許されない
何時だったか
何時ものように
目覚めるとここだった
家族もみんないるよ
各々の位置から
閉じない視線を微かに浴びる
誰も何も動かない
虚ろに響くのは
正確過ぎる時を刻む音だけだ