数日遅れで花は咲いた
妻咲邦香
壁に掛けた絵が傾いて
棚から雑誌が滑って落ちた
花瓶が床で砕けて散った
みんな急いで外に出た
電線が揺れていた
千切れるほどに揺れていた
笑ってる人もいた
隣の建物で大きな音がした
咄嗟に思い浮かべたのは誰だったろう?
電話は繋がらなかった
本当のことなんて誰にもわからない
だからいつも誰かのせいにする
幸せだった時間さえも
その瞬間から不幸と呼ばれる
黒い波に流される車
運転席には人の姿
今夜寝る場所はないだろう
暗がりを歩く人の列は楽しそうで
遠くの出来事は知る由もなかった
画面の光が映し出す
白い煙は一瞬だった
目に見えないものは怖くなかった
人はどうして花を欲しがるのだろう?
やっと繋がった電話の向こう
君は大きな声で笑っていた
海を見に行った人たちは
とうとう帰って来なかった
たまたま選んだ道が
世界を二つに分けた
床に染み込んだウイスキーの匂い
怪我をした人は一人もいなかった
電線
は
いつまで
も
揺れてい
た