舌をだらりと下げ
三明治
当面することが無い俺達は
頭の包帯を真新しいものに替え
ベンチを探しながら、公園の中を首輪の無い犬の様に歩く。
親父が一切の記憶を失った事と
俺がいざこざから退学した事は、互いに関係が無いのだが
ぬるり
と、こめかみに血ミミズが這う
どちらも盛夏に起こった話だ。
歩きながら、俺は親父にせがまれて
したくもない昔話を語って聞かせる
せっかちな性分のせいか
向かい風の熱波のせいなのか
俺達はだんだんと早足になっていく。
親父は盛んに頷きながら俺の話を聞いてはいるが
大部分が嘘だって事に薄々気付き始めているようだ。
四方八方から蝉の声が、降ってくる、湧きあがり、降ってくる。
(オレハ、モウ、リング二タチタクハナイノダ)
俺達は互いの顔に生温かい息を吹きかけながら
そう在りたかった俺達の昔話を繰り返す。
秒針のような季節が御似合いな俺達は
木陰のベンチを足早に通り過ぎる。