舌をだらりと下げ
三明治

当面することが無い俺達は
頭の包帯を真新しいものに替え

ベンチを探しながら、公園の中を首輪の無い犬の様に歩く。

親父が一切の記憶を失った事と
俺がいざこざから退学した事は、互いに関係が無いのだが

ぬるり
と、こめかみに血ミミズが這う
どちらも盛夏に起こった話だ。

歩きながら、俺は親父にせがまれて
したくもない昔話を語って聞かせる

せっかちな性分のせいか
向かい風の熱波のせいなのか
俺達はだんだんと早足になっていく。

親父は盛んに頷きながら俺の話を聞いてはいるが
大部分が嘘だって事に薄々気付き始めているようだ。

四方八方から蝉の声が、降ってくる、湧きあがり、降ってくる。
(オレハ、モウ、リング二タチタクハナイノダ)

俺達は互いの顔に生温かい息を吹きかけながら
そう在りたかった俺達の昔話を繰り返す。

秒針のような季節が御似合いな俺達は
木陰のベンチを足早に通り過ぎる。


自由詩 舌をだらりと下げ Copyright 三明治 2021-08-16 17:43:35
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