暗い風
塔野夏子

暗い風が吹いた
濃くあかるい夏空の下を
暗い風が吹いた

暗い風が吹いてもなお
夏空は濃くあかるく
白くかがやく雲を湧き立たせた
蝉たちは鳴き 鳴きやめ また鳴き
鬼百合 向日葵 百日紅
夏花たちはあざやかに咲いていた

この濃いあかるさが極まるほどに
けれど暗い風も吹きつづけた
この濃くあかるい風景は
幾重もの
透明な暗さで満ちているのだ

だからこそ
この風景の濃いあかるさは
時に壊れんばかりにあざやかであやうく
残酷なまでに彫り深く極まり

暗い風が吹いた
濃くあかるい夏空の下で
くりかえし 暗い風が吹いた



自由詩 暗い風 Copyright 塔野夏子 2021-08-15 11:09:40
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