プラハ
藤原絵理子

城の広場の片隅で
なすすべもなくヴァイオリンを弾いている
餌をくれるんじゃないかと
鳩だけが集まってくる


老人は長年勤めた役所から自由になった
巨大な甲虫は目立たぬよう息を潜めて
いつか脚を広げて飛びたてる日を
古びたホスポダで飲む一杯のピヴォだけを生きがいに


トラムのレールを戦車が踏みつけた
嫌な匂いの煙が漂う街は
少年の頃の祭りにも似て


小さい女の子が
遠慮がちに置かれたケースに
握り締めた20コルナのコインを落とす


自由詩 プラハ Copyright 藤原絵理子 2021-08-13 21:28:33
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