コンクリートの継ぎ目の孤独
藤原絵理子
一本だけ
まつよいぐさに
自己憐憫は欠片もない
高速道路の高架下なので雨露はしのげる
水はない
疾走するクルマがはね飛ばす
わずかな飛沫かたまに流れてくる霧
あるいは迷い込んだ野良犬のかける小便
仲間はいない
足元に誰かが捨てたペットボトルだけ
青空の下の土手で群生する連中を遠目に眺める
風媒花でもないのに なんでここにいるのかずっと問い続けている
花は一夜でしぼんだりしない
秋風が吹いて冬が来るまでずっと咲いている
ときおり信号待ちのクルマのラジオが
死んだ海亀の腹からレジ袋がどっさり出てきたとか言うのが聞こえる
彼の怒りはいずれコンクリートをひそかに割り
突然の大地震で高速道路の高架を崩れさせる
耐震設計を見直すために
産学官民は原因を究明しようとする
追いかけっこ
雨に降られる張子の虎
破れを繕っている間に
別のところが破れてくる
コンクリートの継ぎ目に生えた
まつよいぐさの孤独は
世間から用なしだと宣告されて
擦り切れた老人の濁った眼に似ている