工場跡
藤原絵理子
セピアにくすんだ壁が
「ゆっくり休んでいいよ」なんて囁く夢の跡
ゆがんだ窓ガラス越しに
今日の少女が自転車で駆け去るのが見える
遠い昔に透明だった心は
何度も重ね塗りして濁ってしまった
重かったスーツケースは
なくした夢の数だけ軽くなった
ふいに吹く風が
はずし忘れられた
軒下の風鈴をもてあそぶ
荒野をめざす青年はもういない
立て看板は消えて陰湿なSNSが残った
仮想空間が現実を食い荒らしていく
自由詩
工場跡
Copyright
藤原絵理子
2021-08-06 22:05:34