苔の滝
atsuchan69

夜の河を渡り、
艶やかな曙光の漏れる
真っ暗い雲の拡がりをただ眺める
漸く拳大の握り飯を噛り、
竹筒の水を飲む。

水は、化粧の匂いがした
ふと剣鉈を抜いてみたくなった
微かに残った夜の温もりを
えいっ、
と切り捨てたくなったのだ

そしてふたたび、
女が拵えた握り飯を噛ると、
大きな紫蘇漬けの梅干しが顔を出す
海苔に隠れていた米の飯が、
まもなく朝陽に白く燦然と輝いた

峠を濡らした苔の滝、
涼しげな朝は、
蝉たちが鳴くまで
百年、あるいは千年の時を停めて、
暑い日がやっとはじまる



自由詩 苔の滝 Copyright atsuchan69 2021-08-01 12:52:59
notebook Home