もがきながら側溝の闇に消えた揚羽蝶のために
ただのみきや

飾り物

沢山の飾り物を付けて
自分がひとつの飾り物のように
時代の吊革にぶら下がっていた
円環するはずの路線が
少しずつ内へと傾いて
渦を巻き やがて
凝り固まった闇
終着点 あるいは
アンモナイトの起点から
鴎のような紙の静かな群れ
資料化された怨念はg数千円
乾燥ヤモリはイモリより高価だが
どちらも漂白されてえげつない白さ





弦楽器

丸みは陰影 陰影は直進する
同衾しながら光は手をこまねいている

拷問によって生み出された
見えないからだが空気を纏う
ひとつの舞踏が開花して
あとかたもなく去ってゆく

霊媒師は乾いた骸を箱に収め
影のように傍らへ置き一杯ひっかける





お嬢さん一緒にお茶しませんか

蛇のように猫のように跳ねる魚のように
しなやかな嘘が好きだ
嘘とは名乗らずましてや真実と押し付けず
風のように風と踊る樹々のように
虚を突いて訪れる包み隠された女のように
響き合い虚像を生み陰影を匂わせる
しなやかな嘘が好きだ
時折革の鞭のように虚空を鳴らし
吹き消された後の白い煙のよう
静かにたわんではまた糸のように
すーっと静かに虚に還る
しなやかな嘘が好きだ
ささやくように去りいつまでもそこに
いるような 哀しい幽霊のような
青磁の頬を撫でるようで
愛しい者の頭骨のような
指先にどこまでもつめたくて
こころに熱く沁みて来る
しなやかな嘘が好きだ
歪んだ三面鏡に閉じ込められた
もの言わぬたった数個の痛みの化石が
奇妙な花となって像を結び また崩れ
実も種も残さず海馬に散り落ちる
偽りようもなく同意を求めずひとり
空白の汀に立っている
しなやかな嘘が好きだ





グッピーきれい

それがまともかまともじゃないか
決めるのは専門家ではなく群衆だ
専門家は曖昧を好まず
群衆は「ようするに」を好む
その時そこに開いた傷口
出現した突端の様相を
根深いと言いつつ根を掘り出しもせず
拾い集めたパン屑で大盤振る舞い
二者択一的感情論で
本当は自分も持ち合わせがなく
心はいつもきゅうきゅうとしているのに
自由平等平和さらには多様性と
言葉だけの勲章を指し示し
煽り煽られ熱を帯び
不満と怒りのガスで正義印の風船を膨らませた
自称「正常かつ弱き立場」たち
専門家から端折ったものを
お得意さん(群衆)好みに再構成するマスコミと
ネット漁りで真実を知ったつもりの
「わたしたちは騙されない」派の群衆だ
それがゆるされるかゆるされないか
決めるのは
自分は無名の弱者だから何を言ってもゆるされる
そう高を括った品行方正な群衆だ
そうしてゆるさず見逃さず
顔を隠して投げつける尖った石の礫だ
それが今 新しい世界
現代的で進歩的で素晴らしい世界
迷信深い古代人やイカれた野蛮人には
よく見知った懐かしい世界
いつ覗いても美しい水槽の世界



                《2021年7月24日》







自由詩 もがきながら側溝の闇に消えた揚羽蝶のために Copyright ただのみきや 2021-07-24 12:16:16
notebook Home