重底音
komasen333


弛緩する全景
すり抜けてゆく数々の春夏秋冬
繋ぎとめていたかった面影ばかり霞んでゆく

夕陽を背に
手を振り合ったランドセル
当然のように
その先には明日たちが
待っていた 待っているはずだった

随分
遠い過去のことを語るような目つき
随分
遠い未来のひとへ語るようなつぶやき

過去にできない現実を
丁寧に丁寧に
祈りに祈るように
物語へと高めていかざるを得ない

狙い澄ました
わけでもないだろうが
淡くどす黒い重底音が
徐々に徐々に、立ち込めていく最中
破裂した
破裂するはずのないものたちが
破裂した
破裂してはならないものまでも道連れに

義務を果たすように
激しく、激しく、波打った鼓動
使命を果たすように
儚く、儚く、散っていった街路樹
いつもと変わりなく
朝も夜もくり返したラッシュアワー
押し寄せる
時の砂に攫われてもなお
抗って抗って
そうすれば 忘れられるような気がして

「止めるべき」が
積年に応えるよう
説得力を増しながら
「止めてはならない」を越えていった夏

「止めたい」を
上回る勢いで
根拠という根拠が剥がれたのに
「止めてはならない」が盛り返した冬

いいかい?
そうかい・・・
噛み合わない喧々諤々
成熟の感触を
味わわないまま債務だけが肥大

言葉が泣いた
言葉になれぬまま泣いていた
詩歌が枯れた
詩歌になれぬまま枯れていった

続けてはならないことを
続けてしまう
慣れてはならないことに
慣れてしまう

ただ
その光景を見ていた
ただ
その光景を
見ていることしかできなかった

よくわかるよ
わかりすぎるよ
私も そうだったから
私も その1人だったから


自由詩 重底音 Copyright komasen333 2021-07-24 10:39:36
notebook Home