置き土産爆ぜる
ただのみきや

晴天なり

このまま空に溶けたいね
うた声みたいにさ
エビスの空き缶ひとつ残して






火を盗るもの

日向のアスファルト
黒い毛皮のケムシが駆ける
機関車みたいに突っ走る
焼かれる前に焼かれる前に
辿り着きたい場所がある
間に合わせたい時がある
からだのなにかに急かされて
生と死のストライプ
めくら滅法ころがるように

焚火のまわり
ピエロの衣裳で蛾はめぐる
クエーカーみたいに震えながら
飛びこむ前に飛び込む前に
惜しむことなく全て賭し
おもむくままに踊りたい
こころのなにかにいざなわれ
生死の帯の曖昧を
意にも介せず焦がれて焦げて






女神の羽衣

一週間ほど前の朝
ブロック塀に止まっているオオミズアオを見た
ちょうど同じ場所で
今朝オオミズアオの前翅だけが落ちていた
同じ個体ではないにしても
なにやら事件の目撃者として
勤めを果たさなければならないような
それは事件ではなく日常の生物界の営みだが
そそのかされて隠喩的意味を与えてしまう
古代的心情こそ
現代人としての無自覚的矜持を散失してゆく
手っ取り早い方法かと想いつつ
ほくそ笑む 
べつに誰にという訳じゃないが
これを読む あなたに



                《2021年7月3日》







自由詩 置き土産爆ぜる Copyright ただのみきや 2021-07-03 18:35:47
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