入夏(にゅうか)
北村 守通



もうすぐ
七月だというのに
蝉の声が
やってこない
やってこない
夏の便りは
たらいまわしにされて
ちっとも
ポストに届かない
まちくたびれた
ポストは
うたた寝をして
寂しさを紛らわしている


昨日
蝉の声を聞いた
地球が
太陽の周りを
一周し終わった
ということだった
地球が
一周し終える前に
蝉たちは
生涯を終える
地球が
自分の人生を
しみじみ振り返ろうとする頃
私たちは
絶滅して居なくなっているかもしれない
そのとき
記憶と
力を
振り絞って
振り絞って
絞り出そうとする
地球の話に
相槌をうってやることのできるものは
誰もいないのかもしれない
そのとき
ひとりぼっちの地球は
どんなため息をつくのだろうか


自由詩 入夏(にゅうか) Copyright 北村 守通 2021-07-02 02:57:58
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