お前だけ
木葉 揺

「もうこんな時間」とは
やることのない人の台詞ではない
それでも流れるものは流れる
誰も私に期待してないから
近所のレトリーバーにお願いして
遊んでもらっていたのだ

やることがないのは
うらやましがられる割には
憐れみも降りかかってくる
犬はどうしたら良いかわかってるのに
うらはらとか矛盾とか表裏一体を知らない
だからひたすらフサフサと撫でていた
ただそれだけだ
ただそれだけなのに
体が柔らかくなり皮膚がぽっと温まる
だれが魔法の使える生き物をもたらした
しかもみじめったらしい自分にも
大会社の社長にも同じく優しい

私はお前に
何も与えることはできないんだよ
なんか知ってる人間
というだけで
今日の私をずっと救ってくれたのだ
いつかお礼をせねば

お礼なんてしない方が
飼い主さんに迷惑かけなくていいな
飼い主さんの幸せが
お前の幸せなんだもんな


自由詩 お前だけ Copyright 木葉 揺 2021-06-29 22:48:20
notebook Home