ヒエロファニー
北井戸 あや子

あと一度まばたいたら この視界も偽物にかわる
ガラス越し見据えていた 夜明けの海、らせんの轍
錯視してもう意味のない海鳴りを抱いて貝はねむる
さっきより近付いてる波打ち際、永遠が満ちたら

いつか編んだ悲鳴なぞって読めなくなった言葉がきっとあの日に棄てた今日の意味だとしても遅かった
ねえルードウィヒ 僕はずっとあなたの前で泣いているんだ
「いつか信じたものはなんだったの?」

適当な虹 しおれた月 うろ覚えのあの歌の続き
あと何度忘れてゆく 夜という明滅のはたて
荼毘に付す君の線香 繰り返すそれさえ嘘?

半夏生が茂る頃指折り数えて出来た朝日 きっと夢かその手が掴んでいた約束をどうか離さぬように
渚に刻んだ足跡さえも波が浚って
「あの日見つけた今日に意味などなにもなかったの?」
ねえルードウィヒ 僕はいつもあなたのまえで思っているんだ
いつか見た青さの内側を

悲鳴はいつか声になって言葉を知って歌にかわった
あの日を見ていた今日がらせんにまた遠ざかって
なあルードウィヒ 永久に祈って触れてみたって解りはしないな
「いつか信じれたなら……言わないよ」


自由詩 ヒエロファニー Copyright 北井戸 あや子 2021-06-28 08:56:34
notebook Home 戻る