夏、少年
嘉野千尋

    
   だけど君は駆けていったんだ



 思い出の丘を、雲の影が滑る
 丘の緑はかわることなく風に揺れ、
 遥か彼方に、夏の海を臨んでいる
 ごらん、あの細い坂道に
 僕らの置き忘れた、
 あの夏の影が踊っているよ



 月日は流れて、君の横顔をかえるだろう
 僕は時に肩を落としたり
 遠い空を振り仰いだりしながら
 それでもあの丘を、
 坂道を、
 忘れられずに



 木漏れ日と同じように輝いている
 あれは夏の思い出、
 少年のままの僕らの影法師が、ほら、あそこに
 入道雲が空を押し上げて、高く、高く
 そして夕立



 あれは僕らの夏



 記憶は鮮明で、
 かんたんに僕を連れ去ってしまう
 僕の目の前で木漏れ日が揺れる
 踊っているのはあの日の二人
  


   だけど君は駆けていったんだ




   僕だけを残して





自由詩 夏、少年 Copyright 嘉野千尋 2005-04-24 20:36:04
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