庭のモルモット
竜門勇気


モルモット、だぶついたモルモットは
どっか行こうとするのかね
溢れたケージからこぼれて
それから鼻をひくつかせて
これからを考えたりすんのかね

なんどもドアを開けたっけな
どの入口も
どの入口も意味なんかない
僕は出てった

どっかに行くつもりも
帰ってくる気もない

あんたあんないーところ
もったいないよ
そうすか

そこの草むら、薬まかないで
猫来るから
嫌いなんだけどさ
笑ってみる
成功する
殺したくないんだ、猫
だからできればもう
生まれないほうがいいのかもしれないって思ってる
内緒だけどね

モルモットももっと
たくさんいたほうがいいよ
生まれなきゃよかったんだ
僕も君もさ
そう終われる話なら
ずっと許し合ってるだけで
時間が終わることだってあるよ

今日どこかで
何かが死んでるなんて
信じられない
見たことのないことなんで
すみません、変なこと言ってるか?僕
いつまでも窓から見る空の色だけ
本物だと思ってる

青い、、、赤い、、、黒い、、、
赤い、、、白い、、、汚い、、、

モルモットはきっと飯を食うよな
僕もそうなんだ、おもしれーだろ
モルモットには親がいて家とかもあんのか?
もしそうなら、僕もさ
ひょっとして好きな子がいてヤなやつもいるのかい?
偶然は続くもんだな

あー、その木は切らないで
でかい芋虫が毎年一匹だけ来るんだ
イボタガってんだって、調べたんだ。図鑑買ってさ
触ると頭振ってさ、いやいやーみたいにして
体に触れるとひんやりして柔らかい
凍えた赤ん坊みたいでかわいいだろ?
越冬するらしくてさ
すげーよな、翌年初めて羽を広げて飛んでっちまうんだ
でも、今年はどうだろ
この春先に、羽化に失敗して縮れた羽のまま睡蓮鉢に落ちてたんだ
拾ってその木にとまらせたけど
すぐ落ちてしおれた羽を震わせてたんだ
やけに風の強い日だったんだ
寒そうにみえたよ、ひどく頼りなく
そいつはもう誰にも助けられることはないって突然解ったみたいな顔してた
もう一度拾い上げて近くの植木鉢において
次の日にはもういなかった
だからどれだけ今日草花奢り尽くしていても
その木だけは刈らないでおいてくれ

モルモットはこんなふうに
モルモットはこんなふうに
こぼれたモルモットは生きていると思います


自由詩 庭のモルモット Copyright 竜門勇気 2021-06-10 11:32:07
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