水 槽
塔野夏子

夜がやってきて
水槽を満たす

僕らは語りあう
想い出を あるいは
それに似た何かを

僕が君が僕が忘れないように
君が僕が君が忘れないように

水槽の中
青や緑にゆれるもの
水というより
ゼリイのような

窓ごしの月が
ゆっくりとそのゼリイに
沁みてゆくような

やがて夜が更けて
僕らは黙りあう
想い出を あるいは
それに似た何かを

水槽へ
水葬する

僕も君も僕も忘れてもいい
君も僕も君も忘れてもいい

水槽を満たすのは
昏くやさしい光

それが夜が明ける頃には
消えてしまうから
ただじっと
僕らは見つめる




自由詩 水 槽 Copyright 塔野夏子 2021-06-09 11:05:30
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