紫陽花と秋桜の話
板谷みきょう

紫陽花の花が秋桜に恋をしました。
いつかその純粋な想いを伝えて、
一緒になる事を夢見ておりました。
そうして紫陽花は、
その想いを、日に日に募らせて行きました。
しかし、ある時、風がささやきました。
『秋桜が咲くのは、君が散ったずっと後だよ。』
すっかりのぼせあがっていた紫陽花は、
季節の違いを忘れていた事に初めて気付きました。
それからの紫陽花は、
哀しみにどんどんと青く染まって行きました。

空は同情を寄せ涙を流しました。
その涙は雨となって大地に降って行きました。
空はそんな形でしか、優しさを伝えられませんでした。
が、雨を受けた大地は、
そんな空の心根を無駄にさせない為に紫陽花の強い秋桜への想いと
哀しみを少しづつ慰め続けました。

そうして青い悲しみの色は、
いつの間にか紫陽花の花から抜けて行きました。

紫陽花は枯れた様な透き通った茶色の花となっていきました。
青い哀しみは地中深くに染み渡って行きましたが、
淡い純粋な恋心だけは大地がしっかりと受け止めておりました。

季節は、その間にも少しづつ過ぎて行きました。

丁度、秋桜が咲き始めるころ、
大地は受け止めていた紫陽花の恋心を少しづつ秋桜に伝えたのです。
それを知った秋桜は、紅に染まった花を咲かせました。
風が赤く染まった秋桜を揺らしながら、囁きました。
『季節が違う花同志は、一緒になる事は無いんだよ。』
あれから何年たった事でしょう。
それでも、紫陽花は秋桜に変わらない想いを送り続けているのです。


散文(批評随筆小説等) 紫陽花と秋桜の話 Copyright 板谷みきょう 2021-05-31 22:27:46
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