恍惚の星
這 いずる

急には空を飛べないし
宇宙にだって行けない
ぼんやりととびまわる赤茶の蛙を見
枯れる寸前の庭木に水をやる
夏日照りに恍惚のひと

昨日の続きが今日になってるなんて
夢のない話だ
ある朝起きてスーパーヒーローになってる
とまでは言わなくても

水やりに時間を使っていると
だんだんと空が夕暮れの様相になる
赤が強くまだらに藍が混じっている
日没の寸前一番赤色が強く光って
すぐに全ては群青へ

つまらない自分から何かを捨てて
新しいものの為、隙間を空ける
急には空は飛べない
少しの隙間に羽を詰め込む
急には宇宙へ行けない
少しの隙間に星を押し込む

見るものすべてが新鮮になる
妄想を抱いて割れたレンズが
星あかりの古さを知って幻滅する
身勝手につまらないと
古くなった人形を捨てた代わりに入れた
星を捨てる

弾けまわる雨の音
晴れた空の狐の嫁入り
虹からはじまり暗雲に終わる
水たまりに落ちた夜の空

恍惚の星は見えず
明日は水やりしなくて済みそう


自由詩 恍惚の星 Copyright 這 いずる 2021-05-28 20:15:14
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